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令和6年春季歯周病学会
2024年07月27日
先月、春の歯周病学会が福島県郡山市で開催されました。 コロナ禍以降、様々な学会が現地開催と合わせてオンデマンド配信されるようになりましたが、今回も私はネットで参加しました。 今回私が着目したのは「Fusobacterium nucleatumに着目した口腔管理による癌予防を目指して」という演題です。徳島大学大学院医歯薬学研究部口腔保健医療管理学分野の藤原奈津美教授が講演されました。 数年前より、歯周病関連菌であるFusobacterium nucleatum(フソバクテリウム・ヌクレアタム)が大腸がんの発症に関与していることが指摘されてきましたが、今回の講演では、口腔がん組織からもフソバクテリウム属が高率で検出され、がん細胞の浸潤能を亢進させる可能性についても言及されていました。 このように、私たち歯科医師や歯科衛生士が日常的に対峙しているフソバクテリウム・ヌクレアタムが大腸がんや口腔がんの進行に関わっているのであれば、主に虫歯や歯周病を対象とした従来の口腔衛生管理のあり方も変わり、さらにその重要性が増してきていると言えるのではないでしょうか。私もそのような視点を持って診療にあたりたいと思います。
CT
2021年10月29日
このたび原井デンタルオフィスでは、診断精度および治療効果の向上を目指して最新のCT撮影装置を導入致しました。<br>これにより歯根やその周囲を支える歯槽骨の詳細な状況を確認することができるようになるため、歯周病治療などへ威力を発揮してくれることが期待できます。
また、インプラント治療の際には、細かな事前シミュレーションによって、より正確で安全かつスピーディーな埋入手術が可能になります。
一昔前、歯科医院でのCT装置導入は、コストや装置自体の構造などからとても難しいことでしたが、最近ではそのような問題も改善され、性能面でも優れた機器が開発されたため導入を決断しました。
今後積極的に活用していきたいと思います。
書籍刊行しました
2020年11月05日
先日、私も共著者として執筆に参加した書籍が出版されました。
「低侵襲な歯周治療の実践 」というタイトルの歯科医師向けの専門書です。
この本は、歯周病を治療するにあたって「いかに患者さんの負担を軽減するか?」ということがメインテーマになっています。<br>どのような疾患であれ、治療を受ける立場では、できるだけ体に負担がかからない治療法を選びたいと思うのではないでしょうか。<br>また、高齢化社会を迎え、高齢の歯周病患者が増加しているという側面においても、このようなアプローチは重要性を増していると言えます。
この本の中で私は「腸内細菌」についての項目を担当しました。<br>歯周病と腸内細菌がどのような関係があるのか?と疑問に思われる方もいるかもしれませんが、以前からこのブログでも取り上げていますように、歯周病菌が腸内細菌へ影響を与え、それによって体の様々な器官の疾患の原因にもなっているということがわかってきています。<br>腸内細菌は免疫力を保つ上でも非常に重要な役割をしており、歯周病治療によってそれに影響を与える可能性のある歯周病菌を抑制するということはとても重要なことです。<br>どんな病気に対しても、いかに優れた治療方法や薬を用いても体の免疫力に異常があっては、その有効性は十分に発揮できません。逆に免疫力が十分に発揮できれば、感染症に対しての治療や投薬は最小限度で済むでしょう。<br>このような背景から、歯周病治療においても必要最低限の治療で最大の効果を目指すための体の環境づくりの一つとして腸内細菌を整えることの重要性を取り上げました。
第62回春季日本歯周病学会
2019年06月27日
横浜で開催された歯周病学会に参加してきました。
毎回興味深い発表や講演がありますが、今回私が注目したのは新潟大学のグループで、腸内細菌の代謝産物にスポットを当て、それが歯周病の発症や進行に影響を与えているのではないかという内容の発表でした。
口腔内細菌や腸内細菌が全身へ与える影響については最近の様々な研究で徐々に明らかになりつつあります。私が口腔内細菌に興味を持って検査を始めてから10年以上になりますが、特にここ数年の細菌検査技術の進歩は目覚ましく、その情報量は膨大なものになります。そこから日常臨床に利用できる情報はまだ限られているのですが、現在は新しい研究報告が短いスパンで次々に出てくる状況ですので、私も常にそれらの情報のアップデートに努めようと思います。
また、大阪大学の研究グループからは、お口の写真(歯が写っている)を取ると歯周病の進行状態を推測することができるAIアプリの開発についての発表がありました。歯周病は自覚症状の無いまま進行することもある疾患ですので、歯科医院を受診すべきかどうかをご自身で判断するための有用なツールの一つになり得ると思いました。この発表の際に、NTTドコモの方から質問がありましたが、NTTドコモも東北大学と共同で同様の研究を進めているようです。
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/
1902/21/news142.html
過剰治療 オーバートリートメント
2019年01月03日
昨年2018年9月にスイス経済研究センターが歯科医院の過剰治療についての調査報告を発表しています。
スイス国内180の歯科医院を調査員が受診して診断を受けたところ、そのうちの28%でスイスの治療基準に照らし合わせて過剰と思われる治療を勧められていたということです。加えて患者の社会経済的地位が低いと思われる場合にはさらにその割合が多くなっていることなどもわかりました。
国際歯科連盟(FDI)が2002 年に提唱したミニマルインターベンション(MI)という虫歯治療の基本概念の中に「最小限の侵襲」というくだりがあります。
https://www.fdiworlddental.org/sites/default/files/
media/documents/Minimal-intervention-in-the
-management-of-dental-caries-2002.pdf
この中の一文にできるだけ健康な歯質は削らないようにしましょうという内容の箇所があり、このことは私も日常的に意識しながら治療にあたっているのですが、削るか削らないかの線引きが難しい場合もあります。そのような時は患者さんご本人ともよく話し合いながら治療を進めるようにしています。
もちろん、できるだけ歯を削らないに越したことはありませんが、必要な治療をきっちりと行うことも重要です。
ちなみにこのFDIが提唱したMIで一番に取り上げられているのは「口腔内細菌叢の改善」です。
今ではこのステイトメントが出された時よりもさらに細菌検査技術が進歩しており、口腔内細菌の詳細が調べられるようになっています。
歯石やプラークを取り除くクリーニングはもちろん大切ですが、その前段階としてこのような検査による個々人の細菌叢を把握することの重要性も増しています。
やはり虫歯になってしまう前の予防対策が最も大切ですね。
原井デンタルオフィスではこれらのことを踏まえてお一人お一人の口腔ケアに力を入れていきたいと思います。
2018年秋季日本歯周病学会
2018年12月06日
2018年秋季日本歯周病学会
先月末に大阪で秋季日本歯周病学会が開催されました。
今年は春の抗加齢医学会に続いて2度目の大阪訪問です。
今回の学会で印象に残ったのは、Institut Clinident社CEOである Franck Chaubron 氏が行った講演でした。
この会社はフランスにあり、口腔内細菌検査を請け負っています。
氏は歯周病における早期のスクリーニング、治療効率などに寄与する細菌検査の重要性を強調されていました。
Institut Clinident社の歯周病菌検査はリアルタイムPCR法という手法で行われていますが、私はこの手法による歯周病菌検査を10年以上前から臨床に取り入れており、その有用性は実感していました。その内容に関しては2005年から2009年にかけて歯周病学会で発表もしています。
現在当院ではさらに詳細な細菌を測定できる16Sメタゲノム解析という検査も導入していて、これらの検査を歯周病スクリーニングや重度歯周病の診断、治療予後の評価などに利用しています。
Franck Chaubron 氏の講演では、「病原性細菌を定量化することによって適切な抗生物質の選択および細菌の特徴にあわせた治療を行える」 という旨の話があったのですが、私も全く同感です。
口腔内には多種多様な細菌がいるため、歯周病と診断されても見た目ではどのような細菌が中心となって炎症を引き起こしているか判断するのは困難です。実際の臨床現場では細菌検査により有効性を考慮して抗生剤を処方するということはほとんどありません。
現在、検査費用(細菌検査は保険の適用外)や、歯科医師の間でのコンセンサスなど、この細菌検査をルーティンに臨床に取り入れることに関してはまだ問題はありますが、近年問題視されている薬剤耐性菌の問題も含めて、適切な薬剤使用という側面を考えると、やはりこのような検査により口腔内の細菌を把握するということはとても重要だと考えています。
歯周病菌と大腸がん
2018年07月16日
歯周病が全身へ与える影響に関する新たな報告がありました。
医療従事者向けウエブサイトのメディカルトリビューンに「口腔内の歯周病菌が大腸がん発生に関与」と題された記事です。
https://medical-tribune.co.jp
この記事の元となった論文はGut(2018年6月22日オンライン版)に掲載されています。
https://gut.bmj.com/content/early/
2018/06/22/gutjnl-2018-316661.long
横浜市立大学で行われたこの研究では、口腔常在菌の一つで歯周病進行にも関与することがあるFusobacterium nucleatum(F. nucleatumフソバクテリウム ヌクレアタム )が大腸がん患者の4割以上で唾液とがん組織の両方から検出され、それらは共通の菌株であったことが報告されています。
通常フソバクテリウム・ヌクレアタムは腸から検出されることは少ないとのことで、この結果から、がん組織のフソバクテリウム・ヌクレアタムは口腔由来であることが疑われます。
現段階ではどのようにフソバクテリウム・ヌクレアタムが大腸へ感染していくのかは不明ですが、この記事でも述べられているように、感染ルートとメカニズムが解明されれば、口腔内細菌のコントロールが大腸がん予防に繋がる可能性も見えてきそうです。
このように、ご自身のお口の中の細菌を知ることは、単に虫歯や歯周病の問題に留まらず、全身の疾患リスクを把握する上でも重要です。
当院では、最新の16Sメタゲノム解析という手法によりお口の細菌を詳細に検査することができます。ご興味のある方はお声掛けください。
歯周病学会で発表してきました
2018年06月07日
6月1日、2日と開催された日本歯周病学会に出席してきました。
今回の学会では私自身久しぶりの発表もあり、良い緊張感で臨むことができました。
発表は「デジタルパノラマX線による歯槽骨レベル測定の新システム」というタイトルで、歯周病によって失われる歯槽骨(歯を支える骨)の状態をデジタルX線画像上で計測するソフトウエアについて臨床評価したものです。
このソフトウエアは6年ほど前、私がクリニックを開業する際にレントゲン機器メーカーのアクシオンジャパン社にアイディアをお話しして開発を進めていただいたものです。
従来はデンタルX線写真という小さいサイズのX線写真を10枚ほど撮影してから手作業で歯槽骨の吸収量を測るという方法が用いられていましたが、このシステムでは全体的なX線写真を1枚撮るだけでよいため、患者と歯科医師双方の負担を大きく軽減することができることから歯周病診断へも大きく貢献できるのではないかと期待しています。
学会に参加された多くの方からの貴重なご意見を今後このソフトウエアにフィードバックしていこうと思っています。
2018年 第18回日本抗加齢医学会
2018年05月31日
5月25日から27日にかけて日本抗加齢医学会総会が大阪国際会議場で開催されました。
この学会は歯科に限らず様々な専門分野の医師による発表や講演が行われるため、ある同じ疾患に対しても異なる視点からの意見を聞けることから、毎回とても勉強になります。
今回の抗加齢医学会ではちょっと異色のシンポジウムが開催されました。
そのシンポジウムは「自動車運転の現在と未来」という演題で、医師だけではなく、警視庁やトヨタ社員の方も講演されました。
このシンポジウムは医学とは直接関係ないようにも思えますが、抗加齢医学会としては特に高齢化社会における認知症が疑われる高齢ドライバーの問題は重要だったのでしょう。広い視点から現状を知ることによって医療の分野からもどのような貢献ができるかを考えるには良い問題提起だったと思います。
認知症を専門とする医師からは認知症患者の症状と運転との関わりなどについて、また、警視庁の方からは、改正道路交通法に関連して高齢ドライバーを対象とした認知機能検査の内容とその現状の説明がありました。
トヨタ自動車の講演では、会社の究極の目標として交通事故死ゼロを掲げ、安全技術を中心とした運転の自動化へ向けての様々な取り組みが紹介されました。
講演の内容は昨年モデルチェンジしたレクサスLSに装備された最新技術の話が中心で、会場から質問に立った医師から「今ベンツに乗っていますが、レクサスに変えようかと思いました。」という発言もありました。
さらにその方から「安全技術や自動運転技術が進歩しているが、路面と直接コンタクトするタイヤについてはどうなのか?」という趣旨の質問がありました。
その方は降雪の際はスタッドレスを使用するものの、周囲ではノーマルのままの車も見かけるということでしたので、そのような現状で自動運転や安全システムが路面状況の変化に対応できるのか?という点を疑問に感じたのでしょう。それに対して演者は「ここ20年ほど路面のセンシング技術はほとんど進歩していない。今後AIを用いた路面確認技術の進展に期待される。」のように発言されていました。
このように医学とは少し離れた話題もありますが、それはそれで興味深く聞くことができました。
遺伝子も口臭の原因になりうる?
2018年03月29日
遺伝子も口臭の原因になりうる?
Nature Geneticsという科学誌に、遺伝子も口臭の原因になりうる可能性を示唆した論文が掲載されました。
https://www.nature.com/articles/s41588-017-0006-7
この「ヒトの新規メタンチオールオキシダーゼをコードするSELENBP1の変異は口腔外由来口臭を引き起こす」というタイトルの論文によると、セレン結合タンパク質1(SELENBP1)という遺伝子に変異があると、臭いの原因物質の一つであるメタンチオールが体内で分解されにくくなるということです。
この論文で、オランダのラドバウド大学を中心とした研究グループは、SELENBP1の変異による先天性代謝異常が口臭症の原因となりうると結論づけていますが、このことは私にとって非常に驚きでした。
これまで「口臭は遺伝するの?」という質問に対しては、「直接的に遺伝が関与するものではありません」というスタンスでしたが再考の必要がありそうです。今後の研究の進行についても注視したいと思います。
この遺伝子変異の可能性は9万人に1人程度とのこと。
やはり基本的に口臭については歯垢などの汚れや虫歯、歯周病などお口の問題点を先にチェックした方が良いでしょう。
現状でこの遺伝子変異を歯科医院で検査することは難しいのですが、将来的に口臭治療の一助になることも期待されます。