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歯周組織再生剤リグロス(FGF-2)
2018年02月26日
先日、東京医科歯科大学で行われたリグロスという歯周組織再生剤についての講演会に出席してきました。
講師はこの薬剤の研究・開発を進めてきた大阪大学歯学部の村上伸也教授です。
リグロスは線維芽細胞増殖因子(FGF)と呼ばれるタンパクの一つで、歯周病によって失われた歯根周囲の骨(歯槽骨)の再生を目的とした薬剤です。
このFGFにはFGF-1からFGF-23まで番号がついたグループ(ファミリー)があり、リグロスはこの中のFGF-2にあたります。
FGF-2はこの他に床ずれなどの皮膚潰瘍の治療薬としても使用されていますが、実はこのリグロス、医科領域も含めて世界で初めて「組織再生」を謳った薬剤だそうです。
講演会ではリグロスの基礎から実際の臨床で使用する際に注意すべきことなど詳細なお話がありました。
原井デンタルオフィスではリグロスを使用した再生治療にも対応しております。
歯周病の状況によって適応が異なりますので詳しくはお尋ねください。
イーロンマスクのツイートから
ちょっと気になるツイートを見かけました。
2017年11月14日
世界的な起業家でテスラモータズやスペースX社のCEOなどを務めるイーロンマスク氏が9月4日に発信したツイートです。
“China, Russia, soon all countries w strong computer science. Competition for AI superiority at national level most likely cause of WW3 imo.”
「中国、ロシア、すぐにあらゆる国が強力なコンピュータサイエンスを持つようになるだろう。私の考えでは、国家レベルでのAIの優位性に関する競争が恐らく第三次世界大戦の原因となるだろう。」
このツイートですぐに手塚治虫の代表作「火の鳥」が頭に浮かびました。
その中の未来編という作品中では、人類は悪化した地球環境を避け、五つの人口巨大都市メガロポリスに住んでいます。それぞれの都市は人工知能によってコントロールされ、あらゆる事柄がこの人工知能によって決定されます。人々はそれに従わなくてはなりません。その人工知能の暴走によりメガロポリス間の核戦争が勃発するという設定です。
この作品は1967年から翌1968年にかけて描かれました。
今からちょうど50年も前に手塚治虫が描いたSF漫画の世界が現代のイーロンマスクのツイートとリンクして何とも言えない不安感を覚えます。
まだ実質的な人工知能が存在していない時代であったにもかかわらず、手塚治虫はすでにその危うさを感じ取っていたのでしょう。
かつては“SF=サイエンスフィクション”であった世界観が限りなく“SF=サイエンスファクト”に近づいているように感じられます。
地球の未来がこのようなディストピアとならないように祈るばかりです。
イーロンマスクには火の鳥の感想を聞いてみたいです。
口腔内細菌と炎症性腸疾患
2017年10月29日
10月20日付のサイエンス誌に早稲田と慶応の研究グループが興味深い研究結果を発表しました。
(Ectopic colonization of oral bacteria in the intestine drives TH1 cell induction and inflammation
http://science.sciencemag.org/content/358/6361/359
国内向けのプレスリリースでは、「口腔常在菌の中には、異所性に腸管に定着すると免疫を活性化するものがいる」というタイトルで発表されています。
慶應大学プレスリリース
https://www.keio.ac.jp/ja/press-releases/2017/10/20/28-24943/
早稲田大学トピック紹介
https://www.waseda.jp/top/news/54628
通常では病原性のない口腔常在菌であるクレブシエラという細菌が、腸内細菌叢が乱れることによって腸管に定着し、クローン病や潰瘍性大腸炎 などの病気を発症する要因になっている可能性があるという内容です。
これまで私たち歯科医師は、虫歯菌や歯周病菌については着目していましたが、それ以外の口腔内細菌に関してはほとんど関心を寄せてきませんでした。
研究報告が少なかったこともありますが、臨床で行える検査にも限界がありました。
口腔内細菌検査では主にPCR法という細菌検査手法が用いられていますが、私たち臨床医が利用できる検査では、歯周病菌で最大でも6種類の検出にとどまります。
このような検査内容では全身へ関与する口腔内細菌環境を詳細に調べることは困難でした。
しかし、最新の次世代シーケンサーという検査機器を用いたメタゲノム解析という手法を用いることによって一気に100種類以上もの細菌を検出することが可能になり、より詳しい細菌叢の情報を得ることができるようになったのです。
今後もこのような口腔と全身疾患の関連性に関する研究報告が次々に出てくる可能性がありますので、私も常に注目していかなければならないと思っています。
歯周病菌が腸内細菌へ影響を及ぼすことにより全身疾患発症に関与するという報告は以前にもされています。
このようなことからも、虫歯や歯周病対策だけにとどまらず、やはり全身の健康管理の一環としてお口のメンテナンスを考えることが重要だと思います。
現在当院でもメタゲノム解析を取り入れて口腔内の細菌チェックを行なっていますので、検査をご希望される方はスタッフにお声掛けください。
糖尿病1000万人
2017年09月24日
厚生労働省が2016年に行った国民健康・栄養調査の結果が先日公表されました。
なんと糖尿病有病者が1000万人に達したということです。
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000177189.html
この状況は私たち歯科医師も注目しなければならないと思います。
歯周病は糖尿病の6番目の合併症とも言われ、近年は歯周病と糖尿病の密接な関係が様々な研究で明らかにされており、糖尿病有病者が増加しているということはそれだけ歯周病リスクのある人も多くなっている可能性があるということです。
さらにこの報告は、糖尿病有病者のうち23.4%が治療を受けていないことも指摘しています。
糖尿病の方は口腔内の歯周病治療だけではどうにも改善がみられないということがあり、病状が安定しない人ほど歯周病の治療も難しい傾向があります。
逆に、糖尿病の病状改善のためにも歯周病治療が必要になります。
最近では内科からの紹介で、歯周病の治療を受けるように言われて来院される糖尿病患者の方もいらっしゃいます。
糖尿病も歯周病もどちらか一方だけの治療では効果が限られてしまうことも考えられるため今後はさらに医科と歯科の連携が重要になるでしょう。
糖尿病の治療を受けている方でまだ歯科を受診されていない方は是非一度お口の検診を受けてください。
日本口腔検査学会誌論文
2017年07月15日
日本口腔検査学会誌論文
私も共同研究者として携わった論文が日本口腔検査学会誌に掲載されました。
(日本口腔検査学会雑誌 第 9 巻 第 1 号: 3 – 9 , 2017)
「重度歯周炎患者のスクリーニングを目的とした喫煙歴の有無を加味した歯周病原細菌関連検査の有用性に関する検討 」というタイトルです。
第一著者は医療法人こうの歯科医院の河野寛二先生、私はいつものようにデータ解析担当です。
この研究では、ポルフィロモナス・ジンジバリスとトレポネーマ・デンティコーラという2種類の歯周病菌と喫煙歴を合わせて診る検査方法が重度歯周病のスクリーニングに有用である、という結果になりました。
歯周病は放置するとほとんど自覚症状のないまま進行してしまう怖い病気です。それだけに、病状に無自覚な方をいかに効率よく確実にスクリーニングして治療へ導けるかという問題はとても重要です。
この論文はそのような課題を解決するための一つの方向性を示すことができたと思います。
日本口腔検査学会ホームページ
http://www.jsedp.jp
2017年 春季日本歯周病学会 (福岡)
2017年06月16日
5月12、13日の両日、福岡で歯周病学会が開かれ、私も参加してきました。
今回の学会のメインテーマは「歯周病学の挑戦~サイエンスとヒューマニティの調和」。
ともすると、医療の分野では、学問としての医学と臨床現場での医療行為が乖離してしまうことがあります。
臨床において、単に経験則に頼った医療行為では治療の安全性や効果を的確に評価できません。やはり医療行為には詳細な科学的根拠が大切です。
一方、「科学」をベースにした「医学」は、基本的に体の仕組みや病が研究対象ですので、そこでは「人(人格)」と対峙するという臨床の視点がありません。
臨床と医学の調和がとれた医療こそが本来求められるものでしょう。
我々臨床医はそのことをよく理解して日々の診療に臨まなければならないと思っています。
アメリカ大統領選挙と歯周病の近くもないけど遠くもない話
2016年11月28日
去る11月8日に投票が行われた米大統領選挙、共和党ドナルド・トランプ候補が多数の大手メディアの事前予測を覆す逆転勝利を収めました。
トランプ大統領の是非についての議論は多々あると思いますが、それについてはひとまず脇に置くことにして、この選挙に関して個人的に興味深く注視していたことがありました。
ネイト・シルバーという名前を聞いたことがあるでしょうか?
彼は2008年の大統領選挙で50州中49州、2012年の大統領選挙では50州全ての選挙結果を正確に予測したことで有名な人物です。
実はこの人、選挙予想をする以前から名が売れています。
かなりコアなメジャーリーグファンにはピンと来るかもしれませんが、チームや選手の成績を予想するPECOTAというシステムを開発し、これを用いて米大リーグチームの正確なシーズン戦績を予測したことがあります。その予測手法はセイバーメトリクスと呼ばれ、ブラッド・ピット主演の映画「マネーボール」のモチーフにもなっています。
そのような彼が今回の大統領選挙でどのような結果予測をするのか、そしてそれがどの程度正確なのか、ということが私的な興味の中心でした。
で、彼の予想とその結果はどのようなものだったか?
彼はヒラリー・クリントンの勝利する確率を71.4%と予想していました。
彼のサイトFive Thirty Eight(このサイト名の「535」は全米選挙人の総数です)に詳細があります。http://projects.fivethirtyeight.com/2016-election-forecast/
残念ながら、今回は彼も他のメディア同様トランプの勝利を予測できませんでした。
しかし、そもそも統計学というものは正確なデータ収集が大前提となりますから、事前調査の段階で内心トランプを支持しながらも表立って口に出さない人が想定以上に多数いたことが大きなバイアスとなり誤った予測を導いたと思われます。収集データが間違っていたり、大きなバイアスがあったりするような場合には、たとえどんな優秀な統計学者が解析しても間違った答えしか得られません。統計学ではデータの質が問われますが、どのようにデータを集めるかということが最も重要と言っても過言ではないのです。
そのような観点から言うと、大手メディアを含めてネイト・シルバーも、果たして人々が本当に本音を語っているのか?ということについてもう少し踏み込んで検証すべきだったのでしょう。
ただ、このことについてはネイト・シルバー本人も意識していたようです。
英BBCは以下のように伝えています。
(原文)http://www.bbc.com/news/magazine-37736161
(日本語記事)http://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-37819864
シルバー氏は、多くの調査専門家は不確実性を十分に統計モデルに織り込んでいないと指摘。特に二大政党以外の候補者の人気や、まだ誰に入れるか決めていない有権者の多さを考慮する必要があると強調する。
シルバー氏はそれでも「たぶんクリントン氏が次の米大統領になるだろうが、もしトランプ氏の支持者ならまだあきらめない方がいいし、もしクリントン氏に入れるなら、もう安泰だなんて思わない方がいい」と書いている。
(Five Thirty Eightの原文)
結局このような物事を予測するには、集めたデータが正確であればその後は科学的(統計学的)手法の問題となりますが、最終的には“人の心をいかに理解するかということがもっとも重要である”という何とも当たり前なことに帰着するようですね。
ところで、選挙の2か月ほど前にアメリカ人の患者さんと大統領選挙の話になった際、彼はトランプが勝つだろうと言いました。
その時私はジョークのように捉えていましたが、彼は本気でそう思っていたようです。彼はトランプ支持者ではないのですが、仕事でサンフランシスコへ行った時に周囲の雰囲気が想像以上にトランプ支持を醸し出していたそうです。
当時大手メディアは、トランプ支持者は低所得の白人男性が多いとする向きがありましたが、シリコンバレーを擁する高所得者の多いこの地でも、一概に圧倒的ヒラリー優位ということでもなかったようです。
彼にどちらに投票するのか尋ねたところ、”I gave up”とのことでした。
「もう諦めた」とは、その時既に米国民レベルでは“選挙の流れがトランプ”というのは肌で感じられるほどだったのかもしれません。
ネイト・シルバーが今回の大統領選挙の結果予想を外したとはいえ、彼が解析・予測能力に秀でていることに変わりはなく、私が彼に注目したのもこのことに尽きます。
2008年の米大統領選挙当時、私は「歯周病の発症や進行の予測」というテーマに興味を持ち学会発表を行っていました。それに関連して統計学的手法の実質的な運用について勉強していたところ、ネイト・シルバーの業績を知ることになったのです。
その後2009年に歯界展望という歯科業界紙に記事を書いた際、彼についても触れたのですが、校正の段階で削ることになってしまい、そのことが今でも少し残念に思っています。
(「歯周病リスクシミュレーター(P-RS)の臨床応用」 医歯薬出版 歯界展望 Vol. 113 No.5 2009-5)
以下その時ボツになった文章です。
_____________________________________________________________________2008年5月6日、米大統領選挙民主党候補者を選ぶ予備選がインディアナ州とノースカロライナ州で行われた。
インディアナ州では2ポイントの僅差でヒラリー・クリントンが勝ち、ノースカロライナ州では14ポイントの大差をつけてバラク・オバマの勝利であった。
この結果は大手メディアの世論調査による予想とかけ離れていたため、それを受けて両候補以外に注目を集めた人物がいた。
彼は自身のサイト(http://www.fivethirtyeight.com)の予想でこの結果をほぼ的中させたのである。
ブログ名ポブラノ、本名ネイト・シルバー。
この名前を聞いただけでピンときたら、よほどの大リーグ通である。
彼は野球チームや選手の成績を予想するPECOTAというシステムの開発者であり、過去にはこのシステムを用いて米大リーグチームの正確なシーズン戦績を予測した実績を持つ。
彼は言う「野球も政治もデータがものをいう。ただ、たいていはデータの使い方がまちがっている。」(NEWSWEEK 2008年6月18日号)
歯周病を論じるべき場で政治と野球の話は唐突だったかもしれない。
しかし、シルバーが実際に行ったように、分野を異にしても複雑なデータを扱って正確な予想を立てるという一連の行為は同じである。つまり歯周病を含めた多因性疾患の病態を予測することにおいても、集めたデータをどのように分析し意味あるものにするかという方法論が重要なのである。
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今後、病気の診断や進行予測に関する数学的統計モデルは、AIなどの進歩によって加速度的に臨床現場での運用が進むことでしょう。
しかし、歯科の分野ではまだまだ基礎的な部分で立ち遅れています。
歯周病に関していえば、解析をするための最も重要な基本的なデータ収集ということさえ不十分です。
現在、歯科医師過剰が言われているものの、このような基本的で地道な仕事をする人材は不足しています。
先日ノーベル賞を受賞された大隅良典東工大名誉教授が「少しでも社会がゆとりを持って基礎科学を見守ってくれる社会になってほしい」と受賞会見でも繰り返していたことが記憶に新しいですが、実社会で役に立つ物事の全ては基礎があって成り立ちます。
今後私も臨床に力を入れつつも、バックボーンとなる基礎的な研究にもさらに興味を持って取り組みたいと思います。
2016日本抗加齢医学会 in 横浜
2016年06月22日
毎年5月と6月は学会シーズンです
先月の歯周病学会に続いて今月はパシフィコ横浜で開催された日本抗加齢医学会に参加してきました。
今年の学会テーマは「Antiaging Science : from Molecule to Life」
分子生理学的な基礎研究をどのように実践的な抗加齢医学に結びつけていくか、というような意味合いです。
ここ数年様々な分野でアンチエイジングという言葉を耳にしますが、中には科学的根拠に乏しい情報もあります。
抗加齢医学会専門医の私としては、しっかりとした基礎研究に基づくエビデンスのある情報を発信できるようにしたいと思っています。
2016年春期日本歯周病学会 in 鹿児島
2016年06月02日
先日、日本歯周病学会が鹿児島で開催されました。
大阪くらいまでは日帰りで参加することもありましたが、今回は初日に共同発表も控えていたため前日から鹿児島入りしました。
とは言っても、ゆっくり町並みを見る余裕も無く、鹿児島に行ったという実感が無いのがちょっと残念です。
今回の学会では、昨年同様ここ数年来共同で臨床研究を行ってきた河野先生と神奈川歯科大学三辺教授らのグループでポスター発表を行いました。
前回同様に河野先生が発表者で私はデータ解析を担当しました。
発表タイトルは「歯周病の重症度と臨床検査指標との関連性について の統計的検討 」です。
歯周病菌やその感染度、喫煙などが歯周病重症度とどのように関係しているかを検証しました。
歯周病は重症化するまで自覚症状がほとんど無いため早い段階でのスクリーニングが重要になりますが、この研究が少しでも貢献できるのではないかと考えています。